総評
評価:★★★☆☆
化学メーカー、とりわけ上流と呼ばれているエチレンやプロピレンなどの関係者には必読書ではないでしょうか。
技術者は、あまり価格について考える機会も少ないかと思います。
この本を読み終わた時には、しっかりとコストを意識することが出来る人材に変身できます。
強み
最近新聞で、『原油価格高騰のため、ナフサを原料にした製品の値上がりが続くと予想』という記事も見かけるかと思います。
なぜ、原油価格が高騰した場合、石油化学製品(エチレンなど)の値段も上がるのでしょうか。
ずーっと疑問でした。
経済の勉強をしている人は釈迦に説法ですが、価格は需要と供給によって決まるはずです。

需要を考えずに決まることがあるのか?
それを解決してくれます。
過去の化学メーカー(三菱油化、三菱化成、昭和電工など)と石油精製側の関係に関して、また国も絡んだ経産省内での葛藤なども詳細に書かれています。
揉めた末に石油化学製品価格はN(エヌ)リンクという方法で決めることで合意しました。
”N”とは『国産ナフサ』のことを意味しています。”リンク”とはつながっていることです。
「石油化学製品は国産ナフサで決まる」ということが言いたい内容です。
『国産ナフサ』とは、日本の輸入ナフサ価格を輸入ナフサ量で割ったものです。
つまり、大分で作ろうが、神奈川で作ろうがNリンクを採用すれば、石油化学製品はほぼ同じ値段になるということです。
目からうろこでした。
現在の日本ではナフサだけでなくLPG(プロパンやブタン)を原料にしてエチレンを作っているところも多いです。Nリンクにすると国産ナフサで製品価格が決まってしまいLPGコストは何も反映されません。
今後の世界情勢の中で、石油化学製品価格の決まり方がNリンクで良いのか考えさせられる内容となっています。
弱み
本書は石油化学製品をターゲットにして書かれていますので、原油価格に関しては手薄かと思います。
”『国産ナフサ』は北海ブレント原油をマーカー原油としている”とここまではオッケーなのですが、
そもそも、ブレント原油の価格の決めあり方はどう決まっているのか。
事前情報として入れておきたい内容です。
補助的資料
あまり、原油価格の決めり方に関してまとまった本が見つかりませんが、
下の本がおススメです。
石油価格はどう決まるか―石油市場のすべて | 重治, 甘利, 博士, 山岡, 幹夫, 河村 |本 | 通販 | Amazon
世界3大原油から、OPEC+の生産調整による価格の変動を需要ー供給曲線で定性的に学ぶことができます。
情報が古い部分もあり、現在の法規制とは異なっている内容もありますが本質を抑えるのにはもってこいかと思います。
さいごに
石油化学製品に関して携わっている方には、コストを意識する必要があると思います。
まず、この本を読んで間違いなしと太鼓判を押せます。
技術者でも常にコストを念頭に考える意識を持つことで、社会情勢が変化していることを瞬時にキャッチでき、今、何の検討が必要か判断していきましょう。
足元、OPEC+は増産を抑える決定をしました。今後、原油は上がっていくと考えられます。
資源がない日本で安定的に操業するため、視野を広げていきたいものです。
それでは!!
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